場所は大磯町某所

クライアントはご夫婦と小さな子供の3人暮らしで、ご主人は個人事業主、奥様は会社員という共働きスタイル。10カ月ほど前に連絡をいただき一緒に大磯町限定で中古物件を探しはじめ、それほど悩むことなく出会った古民家は小さな平屋でした。明治中期から昭和初期にかけて要人の避暑地として邸宅や別荘が多く建てられた大磯にはいまでも文化の薫りが残っていて、鎌倉ほど商業化されていない住みやすい街。

築52年のこの古民家は当時としてはめずらしく完了検査済書が発行された建物でした。つまり当時の建築基準法を順守してしっかりと建てられた家。周辺のほとんどは最近の住宅に建て替えられていますが、この家だけがポツンと当時の面影を残して異彩を放っていることも検査済証を見ればうなずけます。とはいえこれから先何十年もこのまま住めるわけもないので、いつものように躯体を残しフルリノベーションの着工です。

屋根は瓦ですが特筆すべきダメージは見当たらないし、古民家の雰囲気にはやはり瓦屋根が似合うので今回は既存のままとします。そして躯体以外の壁・床・天井はいつものようにすべて撤去。また80mm程度の不動沈下があったのでまずはジャッキアップして是正です。土間を打ち、耐震補強をし、設備を刷新し、断熱材を充填し、いつもの仕様で基本工事を終わらせてからの仕上工事。

外装は杉板縦貼り+押縁+キシラデコール塗布、妻壁軒下のみ本漆喰です。内装はすべての開口部高さを揃えて、下部はラワン合板、上部はEP白塗装と、シンプルで上品でどこか懐かしいテイストに統一させ、アクセントとしてモルタルの左官壁をバランスよく配置。いつものウチの仕様なのに同じものはひとつもありません、唯一無二の家。外構については適宜板塀を新設し、十分な空地には2台分の駐車スペースと前庭を確保しました。

新旧の家々が混在し、趣きのある古い町並みが確実に減りつつある大磯。壊してしまったものはもう二度ともとには戻せない、というあたり前のことを一日も早く多くの町民に自覚してもらえる日がくることを願うばかりです。