2020年初夏、コロナ禍の真っただ中、なぜかふと懐かしい顔を思い出し、数年ぶりにSNSで連絡を取ってみた。変わらずに元気そうだ。LINEのやり取りもそこそこに時間を調整してすぐに会いに行った。昔から変わらない笑い声。でも少し太ったか?まぁ、お互いさまだ。今にして思えばそれは虫の知らせだったのかもしれない。

数時間、彼の自宅で無駄話。食事の後「じゃぁまた」という一歩手前。
「そういえば今度マンションを買おうと思ってね。ちょうどよかった図面見てくれる?」
そこにはリフォーム業者が書いた図面と見積書があった。
「なんでいまそれを言う?」

取り急ぎ、先方の業者に連絡してもらい工事契約をストップ。「なぜ最初からオレに相談しないんだ?」という疑問を残しつつも、ゼロからの設計スタート。仕事を横取りしたつもりはなく「これはオレがやらなきゃダメでしょ」というのが素直な感覚。そう、クライアントはなんでもわかり合える35年来の友人だから。

場所は若者に人気の街、吉祥寺にあるヴィンテージマンションでワンオーナーの一室。限られた予算の中で一旦スケルトンにしてからのフルリノベーション。室内を無駄に狭くしたくなかったので素地を大切にし、極力最小限の薄化粧。ウチのいつもの仕様も混在させつつも、キレイなコンクリートはできるだけ残し、そのままにはできない部分はモルタルでしごき、基本的にはインダストリアルな印象のインテリア。専有エリアの中央にドアも天井もないコア収納を集中させて解放感を意識しつつ動線の無駄を省く。

コンパクトでシンプルで環境も立地も街へのアクセスも申し分なし。「ここはオレの終の棲家だ」と彼は冗談のように言っていたけど、もしも本当にそうなったとしたらそれはステキなことだよね、と素直に思う。